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矛盾について(その442) ブログトップ

10月19日(水) [矛盾について(その442)]

 新聞を読んでいて久しぶりにいいことばに出会えました。渡辺京二さん(ぼくには名前も聞いたことのない思想史家)が卒業を控えた女子学生に向けて語ったことばがいい。「自己実現?それは出世主義のことでしょう。人生は無名に埋没するのがよいのです」。これは人をドキッとさせます。
 しかしこれが人をドキッとさせるのは、このことばが渡辺さん自身にも向けられているからこそでしょう。親鸞の「かなしきかな愚禿鸞、愛欲の広海に沈没し、名利の大山に迷惑して」を思い起こします。「無名に埋没するのがよい」と言いながら、どこかで名利に迷うこころを感じている。感じながら、しかし、自他に向かって「名利に迷うべからず」と言う。
 あるいは、就職先がないということは、自分は社会から求められていないと思ってしまう学生に向かって、「社会とはそんなものではない。社会がどうであろうと、自分は生きたいし生きてみせる。人は社会から認められるから生きるのではない。社会に貢献なんかしなくてよろしい。まず自分がしっかり生きること。社会全体がお前は死ねと言ったって、嫌われたって、自分は生きる。生きていっていいんだ。そのことを肯定すること。そうやって生きているひとりひとりがなんとか関係を作らなければならないから、社会というものができてくる」。
 凛とした、いいことばです。しかし、ここでも「人は社会から認められるから生きるのではない」と言いながら、自分の中のどこかに「社会から認められたい」という気持ちが潜んでいないかと迷う。迷いながら、しかし、自他に向かって「嫌われたって自分は生きる」と言う。そうであって初めて、このことばが凛とした響きを持つのです。

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